■考える力養える/「知識活用」重視に疑問も
4月20日に行われた平成22年度の全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)では、「ゆとり教育」からの脱却や「知識の活用」を目指す来年からの新学習指導要領を意識した出題が目立った。テストを分析した専門家からは「子供たちが自分で考える力を養う」と高評価がある一方、「日常生活をモチーフにした出題が多過ぎて、逆に子供の思考低下を招きかねない」と批判も上がっている。果たして新学習指導要領は、子供たちの学力アップにつながるのか。全国学力テストを通じて検証した。 (植木祐香子)
今年の問題は、新しい学習指導要領の趣旨を先取りした内容で、以前は教えなくていいことになっていたレベルの問題を盛り込んだほか、「知識の活用」を目指し、日常生活と学習内容を関連させた出題が目立った。
「子供たちの思考能力を問う良問」。算数・数学問題に詳しい筑波大学の坪田耕三教授はこう評価する。
小6の算数では新指導要領で円周率「3・14」が復活するが、学力テストでは円を細かく分けて並べ替えると長方形になる考え方を図で示し、円の面積がどう導き出されるかを問う出題があった。坪田教授は「ただ公式を覚えさせるのではない。公式の意味を考えることが求められる」と指摘する。
立体図形で辺と面が垂直かどうかの調べ方を選択させる中3の数学の問題もあり、「実際に立体図形を分解したり、平面図形を調べたりした経験から得られる知識が必要」と分析。「これからはただ知識を詰め込むような授業では通用しない。先生の授業力が問われる」と強調する。
一方で、算数・数学で割引券の効果を問う出題があったり、国語で新聞を読ませる問題があったり、「知識の活用」を強調した点については賛否がある。
「日常を強調する余り、子供たちの思考力をじっくり養うという視点が欠けているのではないか」。国語作文教育研究所の宮川俊彦所長は、こう批判する。
小6の国語では、作家、小松左京氏の作品から釣り好きの宇宙人を主人公とした物語について、感想を書かせる問題があったが、宮川所長は「論理の基礎となる立脚点や文章の目的を明示したうえで感想を書かせていない」と指摘する。
中3の国語では作家、太宰治について書いた架空の新聞を題材にした問題があったが、これについても「題材はいいが、文章を読めば回答できる設問ばかりが出題され、勉強ができる子供にとっては簡単すぎる」と手厳しい。
文部科学省では「問題の全体的な難易度は変わっていない」としており、問題レベルが全体として変わっていないのも事実だ。問題形式も、前年度と変わらず大部分が選択式の問題だった。
宮川所長は「もっと記述問題を増やして子供たちが結論にいたるまでのプロセスを分析するような問題を出題した方が、国語理解、言語理解が深まる」と話す。もちろん、全国学力テストは、複数年にわたる学力レベルの調査も重要な目的だけに、急に難易度を上げるわけにはいかない。ただ、専門家からは「実際に教師が教える際に、『活用』ばかりを重視する余り、難しい問題をじっくり考えることを教えないと、新指導要領は逆に、マイナスになりかねない」と危惧(きぐ)する声も上がっている。
【用語解説】全国学力テスト
平成19年度から全国の小学6年と中学3年を対象として、国語と算数・数学で行われている。今年度は30・7%の学校を抽出して行われたが、抽出対象外でも自主的に参加した学校もあり、全体の73・5%、約162万5千人の児童・生徒が受けた。
【関連記事】
・
学力テスト「抽出方式」や科目・学年見直しも ・
新聞記事や割引券…実用的学力重視 学力テスト ・
全校決断、財政不足、知事方針…学力テスト抽出漏れ対応さまざま ・
全国学力テスト浸透、大阪府は参加率96.4% ・
女子中生の3割「運動しない」 子供の運動、二極化 文科省調査 ・
<福島地裁支部>デジタル記録の証拠消去 原告に1年伝えず(毎日新聞)・
夏も近づく八十八夜♪ 姉さんかぶりで新茶摘み(産経新聞)・
中3男子2人がホームレス狙いテントに放火(スポーツ報知)・
衆院選挙制度見直しを=山口公明代表(時事通信)・
心霊スポット 病院跡地、公園に 神奈川・厚木(毎日新聞)